『Read Your Photography』では、ただ見るだけでは出会えない、写真の裏側にある“物語”に目を向けます。cizucuが主催する〈photo poster project〉や、SNSを通じて集まった作品とともに、その一枚が生まれた背景やその人だけの時間を、cizucuマガジンが12言語に翻訳し、世界中へ届けます。
物語を心にしまっておくのもひとつの選択。けれど、その想いは誰かの心に静かに触れ、まだ見ぬ感動を生むかもしれません。
今回ご紹介するのは、世界中から集まった5名の作品です。
それでは、唯一無二の物語を、そっと覗いてみましょう。
蔡秉錩’s Story

Photo by 蔡秉錩
蔡秉錩
📷 FUJIFILM X-H2
📚 01
この写真の誕生は、技術的な捉え方というよりも、むしろ心境の投影だと言えるでしょう。当時の私は、まるで狭間にいるような時間の中にいました。背後には終わりのない試験と進学のプレッシャーがあり、目の前にはまだ見ぬ未来が広がっていました。そして熊本の街頭にいたあの瞬間、私はただ静かに、光と影が線路の上を流れていくのを見つめていたかったのです。
一人のよそ者として、学生として、観光客として、あの列車がどこへ向かうのか分かりませんでした。それは未知の未来のようであり、あるいは自分のこれからの人生のようでもありました。選択肢は多くあるように見えても、どの道が本当に自分の心の向かう先へと続いているのかは分からなかったのです。
しかし今振り返ってみると、この写真は、実は未来の自分へ宛てた一通の手紙だったのだと思います。もしある日、未来を追いかける道の途中で再び方向を見失ってしまったとしても、この赭紅色の光と影が、私に思い出させてくれるでしょう。ゆっくりと、自分自身の軌道の上を歩いていくことも、きっと悪くないのだと。
cizucu編集部
線路の上を滑る光と影を「未来への手紙」として写しとめた一枚だと感じました。試験や進学のプレッシャーに押され、どこへ向かうのかもわからないまま立ち尽くす感覚は、きっと多くの人の胸にも静かに重なります。赭紅色の列車は、迷いの中でも歩みを止めない意志そのもの。遠くへ行くためではなく、自分の軌道を確かめるために、今日もゆっくり進んでいい。そんなやさしい肯定が、この作品から伝わってきます。
Ryan’s Story

Photo by Ryan
Ryan
📚 02
これは平凡な午後のひとときだった。しかし、八千里の道のりを越えてこの街を見に来た一人の少年にとっては、少し特別なものだったかもしれない。
世界で最も忙しい交差点、オーストラリア・シドニーのQVB前の広場で、一人のストリートアーティストが、ひと袋のチョークを手に、人の行き交う広場の中で、心に描いた一枚の絵をゆっくりと一筆一筆描いていた。街を行くパレードも、行き交う車も、彼には関係がない。
あの日、少年は何度もその場所を通り過ぎた。真昼から夕暮れの余光まで、作者が没頭するその姿は、いつも彼の足を長く止めさせた。やがて夜の帳が降り、再び広場を通りかかったとき、作者はすでに袖を振るい、跡形もなく消し去って去っていた。何一つ痕跡を残さず、どんな報酬も受け取らず、まるでこの午後には何も起こらなかったかのようだった。
しかし少年の記憶の中では、一人の人間と一枚のコンクリートのキャンバスこそが、この街の最も美しい姿であり、そして人生に対する最も純粋な愛だった。彼ら、作者と少年は、それぞれの情熱で、記憶の中に最も美しい絵を描いていた。
cizucu編集部
人波と車が絶えない交差点の片隅で、黙々とチョークを走らせる背中。街の速度とは無関係に、自分の時間だけが静かに流れていくのが印象的です。やがて絵は跡形もなく消えてしまっても、その場に立ち会った人の記憶には、確かに色が残る。報酬も称賛も求めず、一瞬のために情熱を注ぐ姿は、旅人だった少年にとって「この街で出会ったいちばんの美しさ」になったのかもしれません。
Peter Lin’s Story

Photo by Peter Lin
Peter Lin
📷 FUJIFILM X-S20
📚 03
この写真は、2024年1月に台湾の高雄市で撮影したものです。当時、私はバイクであちこちを走り回っていて、よく通りかかる住宅街のバスケットボールコートを見かけました。気になって、近くに停めて少し歩き回ってみることにしました。
その頃は、このカメラを買ってまだ間もない時期でした。また、ちょうどコロナ禍が明けてから半年ほど経った頃でもあり、まだマスクをしっかり着けて外出している人もいる時期でした。そんな中で、私はこの二人の子どもに気づき、そのうちの一人がマスクをつけたままバスケットボールをしていたのです。それがとても印象的でした。
マスクをしているにもかかわらず、彼はとても集中してプレーしていました。その姿を見て、私は彼らがバスケットボールをする様子を記録しようと決め、この写真を撮影しました。この写真は、たとえマスクをしていても、相手と競い合いながら懸命に取り組んでいる姿を私たちに伝えているように感じられます。
cizucu編集部
フェンス越しに切り取られたコートの一角に、コロナ明けの空気と、変わらず続く「遊びの真剣さ」が同居しています。マスクで表情が隠れていても、相手に向き合う視線や踏み込みの強さは隠れない。日常の住宅街で交わされる、小さな勝負と集中の時間が、静かな熱をまとって立ち上がってくる一枚です。「戻っていく途中」の世界で、子どもたちはもう前を向いて走っている。そんな確かな希望が写っています。
AllenChen’s Story

Photo by AllenChen
AllenChen
📚 04
これは台湾プロ野球選手・林智勝の引退を祝う場面である。 人は一生のうちに一つのことをやり遂げることができれば、それで功徳は円満である。
林智勝は一生をかけて野球を続け、「野球をする」というその一つのことをやり遂げた。李國修の言葉の通り、すでに功徳円満である。そして、体力が衰え、やむを得ずグラウンドに別れを告げ、選手としての身分を下ろすそのときには、盛大な引退式で記念されるに値し、すべての選手と満員の観客から称賛を受けるにふさわしい。
引退式の最後、多くの選手たちが彼を高く宙に投げ上げ、この貴重な瞬間を祝福するとともに、22年間のプロ野球人生に幕を下ろした。これからは選手からコーチへと立場を変えるが、立場は変わっても、野球への愛は変わらない。
cizucu編集部
積み重ねた年月が、宙に舞う一瞬に凝縮される、そんな引退セレモニーの熱がまっすぐ伝わってくる一枚です。仲間の手が伸び、観客の光が揺れる中で、選手は「ここまで来た」と全身で笑う。やり遂げた者だけが見せる軽やかさと、受け継がれていく意思。立場が変わっても、野球を愛する時間は続いていくのだと教えてくれます。
LEE PEI SUNG’s Story

Photo by LEE PEI SUNG
LEE PEI SUNG
📚 05
これは、写真好きの仲間たちと初めて出会い、初めてグループで撮影した午後のことです。7、8人ほどがそれぞれ異なるブランドのカメラを持って集まり、違いはありながらも、写真を愛する同じ初心を共有していました。
この一枚は、私にとって初めてのストリートスナップの構図への挑戦でもあり、彼らから刺激を受けたものです。私は店の横の階段のところに座り、ローアングルとスローシャッターを使って、路地の中を行き交う人々の日常を捉えました。
そしてちょうどよく、画面は青い色調に包まれていて、まるでひとつの確かさのある、日常の流れのように感じられました。
cizucu編集部
はじめて仲間と撮った午後の高揚と、路地の“流れ”をそのまま写し取った一枚ですね。スローシャッターで人の気配を青い残像に変えつつ、奥にある自転車や街のディテールは静かに残っていて、「動き続ける日常」と「確かにそこにある場所」が同居しています。撮る側の新しい挑戦と、同じ初心を分かち合った時間が重なって、写真そのものが“出会いの記念”になっています。これからも続いていく撮影のはじまりを、やさしく刻む作品だと感じました。
最後に
いかがだったでしょうか。
ビジュアルだけでは語りきれない魅力に、私たちは目を向けていきたい。『Read Your Photography』は、写真の奥にある想いや感情に目を向け、ひとつの物語として受け取るための企画です。
写っているのは、ほんの一瞬です。けれどその奥には、確かに流れ続けてきた時間と、言葉にならなかった感情があります。
どうか写真を読むように、そして頁をめくるように、味わってみてください。
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