独自の視点で写真表現を追求する人物へのインタビューを通じて、創作の原点や思想、制作プロセスを掘り下げ、世界中のフォトグラファー・フォトメディアに新たなインスピレーションを届けます。
ドイツを拠点に活動する写真家〈Verdiana Albano〉さんの創作の原点、そして大切にされている思想や視点。それらを今の時代に言葉としてアーカイブし残していくことは、これからの写真文化の一端を支えていくはずです。
今回の「10の質問」を通して、その表現がかたちになるまでのプロセスに迫ります。

Verdiana Albano
ベルリンとフランクフルトを拠点に活動するヴィジュアル・アーティスト / キュレーター。写真、アーカイブ、インスタレーション、テキストを横断しながら、ドキュメンテーション、記憶、移動(移民)、アイデンティティ、集合的歴史を、リサーチに基づく実践として探究している。ファインアート、建築、グローバル経済学という背景を土台に、個人的なナラティブが社会・政治・経済のより大きな構造と交差する地点を捉え直す。
Instagram : @verdianaalbano
Q1. あなたの写真の原点と、現在の活動について教えてください。
私が写真に向き合うようになったのは、旅がきっかけでした。美術を学んでいた頃、いくつかの渡航助成を得て、世界を知ると同時に、写真家としての自分自身を見つけていく経験をしました。
やがて私は、写真というメディアそのもの、そしてその歴史についても問い直すようになり、記憶、アイデンティティ、帰属意識といったテーマを探究し始めました。異なる文化的文脈のあいだで育った経験は、個人の歴史が社会・政治・経済の構造と密接に結びつきながら形づくられていくことを、私に強く意識させました。
写真、そしてレンズを介した表現は、そうしたつながりを丁寧に掘り下げ、見過ごされがちな断片的な物語に光を当てるための、確かな手がかりになりました。

©︎ Verdiana Albano
現在の私の実践は、リサーチを基盤とした学際的なものです。写真に加え、アーカイブ資料、テキスト、協働的なプロセスを組み合わせながら制作しています。
作品の中では、個人的経験、美術の学び、そして建築とグローバル経済学という背景が交差し、移民、表象、集合的記憶といったより大きな問いへとつながっていきます。
Q2. あなたの作品において、最も大切にしている要素・テーマは何ですか?
私の作品の中心にあるテーマは、記憶、帰属、移動(移民)、そして歴史がどのように構築され、伝達されていくのかという問題です。個人的な語りと、より大きな社会・政治・経済構造との関係に強い関心があります。
多くのプロジェクトは、個人の経験や家族史、特定の場所から始まりますが、やがて表象、アイデンティティ、集合的記憶といった広い問いへと展開していきます。リサーチは私の実践に不可欠で、アーカイブ、収集した資料、オーラルヒストリー、協働的なプロセスを通じて、何が記憶され、何が忘れられ、あるいは意図的に欠落させられているのかを探ります。

©︎ Verdiana Albano
ひとつの固定された物語を提示するのではなく、複数の視点が立ち上がるための余白を残したいと考えています。私が探究しているのは、イメージが私たち自身や他者への理解をいかに形づくるのか、そして写真が支配的な語りに揺さぶりをかけ、対話の可能性をひらくために、どのように機能しうるのかということです。
Q3. あなたの作品はどのように生まれますか?直感や偶然、現場での判断など、創作の裏側が知りたいです。
どれほど予期せぬ瞬間であっても、そこに意味のある何かが立ち上がることがあると信じています。だからこそ私は、新しい思考や出会い、視点に対して、つねに開かれていたいと思っています。多くのプロジェクトは、特定のイメージからではなく、日常の観察や小さな疑問から始まります。
そこからリサーチを重ね、社会的・政治的・グローバルな文脈の中で対象を捉え直していきます。読書、対話、アーカイブ、旅、あるいは特定の場所で時間を過ごすこと。そのすべてが制作の一部です。私は、些細なディテールや断片的な物語を追いかけながら、それがゆっくりと大きなナラティブへと展開していくのを待ちます。

©︎ Verdiana Albano
リサーチが思考の枠組みを与える一方で、直感もまた同じくらい重要です。概念的な思考と観察、そして偶然の出来事が互いに作用し合い、固定された計画に沿うのではなく、プロジェクトは有機的に育っていきます。
Q4. あなたが表現を続ける原動力は何ですか?
正直なところ、その問いは、ほとんどすべてのプロジェクトの途中や、終わったあとに自分自身へ投げかけています。言いたいことに疲れてしまう瞬間もあれば、資金や技術面の課題が立ちはだかったり、アートシーンのある側面に退屈や苛立ちを覚えたりすることもあります。
それでも数日後、あるいは数時間後には、新しい疑問や観察、好奇心が必ず芽生えます。そして、それを調べ、理解し、かたちにしたいという衝動が戻ってくる。どれだけ「オフ」にしようとしても、何かが目に入り、また引き戻されてしまうのです。
正直、それは祝福であり、呪いでもあります。

©︎ Verdiana Albano
けれど私は、創作とは単に「すること」ではなく、世界と関わり続けるための方法なのだと、いまは受け入れています。
Q5. お気に入りの一枚を見せてください。その一枚に込めたストーリーや、選んだ理由も知りたいです。
プロジェクトごとに美学もコンセプトも大きく異なるため、「いちばん好きな一枚」を選ぶのは簡単ではありません。
それでも今回は、現在進行中のシリーズ『i ain't from no east coast』から、一枚を選びました。

©︎ Verdiana Albano — Reference: Advanced Chemistry, Fremd im eigenen Land (1992) — Location: GDR Everyday Life Museum, Malchow (2024).
この写真には、旧東ドイツ(GDR)の「日常生活ミュージアム」と呼ばれる Malchow の施設にいる、私と兄の姿が写っています。ベルリンの壁崩壊後、旧東ドイツの人々が「Ostalgie(East+nostalgia)」の感覚のもとで、日用品や記憶を集め、私的に運営していることの多い場所です。
兄は1989年、壁が崩壊する直前にGDRで生まれ、私はその直後、同じ病院で生まれました。両親は、Angola と東ドイツの社会主義協定により父が契約労働者として東ドイツで働くことになったことをきっかけに出会っています。私たちはこの空間の中で自分たちを「演じる」ことで、誰の物語が記憶され、誰の物語が取りこぼされるのかを問い直しています。
さらに小さな介入として、GDRの教育相であり指導者 Erich Honecker の配偶者でもあった Margot Honecker の肖像を、Martin Luther King Jr. の肖像に置き換え、歴史の語りをささやかに組み替えました。このプロジェクトのためにアーカイブを調査していると、社会主義体制の中で目覚め、ほどなく資本主義へと移行する世界を生きることが、家族にとってどんな感覚だったのかを想像せずにはいられませんでした。
この写真は、そうした好奇心と、私たちがほとんど記録されない歴史の中に居場所を取り戻そうとする試みを反映しています。Kodak Gold のフィルムを選んだのは、濃い肌の色調をより良く表現するために開発された初期のカラーフィルムを参照したかったからです。撮影には、GDRで製造された旧式の中判カメラ〈Pentacon Six TL〉を使用しました。
Q6. AI時代に、写真はどんな意味を持つと思いますか?
私は、技術の変化そのものを恐れる必要はないと思っています。むしろ、新しいツールと、批判的で責任ある関わり方を学びながら、それを世界をより良くするためにどう活かせるのかを考えるべきです。
創作の文脈では、私はいまAIを「置き換え」ではなく、芸術的な可能性をひらく別のメディアとして捉えています。ただし、委託制作や報道、ドキュメンタリーの領域では、作者性、透明性、信頼といった問題が不可欠であり、その含意は大きく異なります。
AI生成画像が容易に作れるようになったからこそ、イメージがどのように生まれ、流通し、解釈されるのか。私たちはそのプロセスに、これまで以上に慎重である必要があります。

©︎ Verdiana Albano
私自身も、写真だけでは伝えきれないアイデアや、現実には起こりえないシナリオを思考実験として提示したいときに、作品の一部でAIを用います。私にとってAIは、批判的思考や芸術的意図の代替ではなく、あくまでそのための道具です。
Q7. ドイツのシーンの中で、あなたが「重要だ」と感じる動きやコミュニティは?
現在のドイツのアート / 写真シーンで最も重要だと感じるのは、これまで十分に表象されてこなかった視点のための場を、自ら立ち上げていくセルフオーガナイズドな取り組みやコミュニティが増えていることです。近年、アーティストやキュレーター、文化労働者が既存のナラティブや制度を問い直し、移民、ポストコロニアルの歴史、アイデンティティ、労働、表象といった問題について、重要な議論を積み重ねてきました。
同時に私は、アートは「私たちがすでに築いてきた社会の現実」を、より正確に映し出すべきだとも考えています。ドイツを含むヨーロッパは、多様な文化的影響と越境的な歴史によって形づくられてきました。EUは経済・政治プロジェクトであるだけでなく、文化的プロジェクトでもあったはずです。しかし今日、より広い共有の文脈ではなく、国家的な枠組みで考え直す傾向が、再び強まっているように感じます。

©︎ Robert Schittko, “New Works,” Deutsche Börse Photography Foundation, Frankfurt (2022).
私は、競争ではなく協働、知識の共有、そして相互扶助によって動くコミュニティに強い関心があります。独立した取り組みから刺激的な動きが生まれる一方で、大きな機関が草の根のアイデアを積極的に支援している例も見られます。
私が立ち上げた、アフロ・ヨーロピアンやディアスポラにルーツを持つ新進・若手アーティストのためのネットワーク〈Institute Contemporary〉でも、複数の大きな財団や文化組織から支援を得てきました。こうした協働は、より包摂的で相互に接続された文化的景観を築くうえで、不可欠だと考えています。

©︎ Verdiana Albano
Q8. 他国の写真シーンやクリエイターに、興味や刺激を感じることはありますか?
もちろんあります。最近は特に、ガーナ、トーゴ、南アフリカ、香港のレンズを介したアーティストの作品に強く惹かれています。興味深いのは、記憶やアイデンティティ、都市の変容、社会変化といった問いに対して、ローカルな状況に応じて応答のかたちは大きく異なりながらも、同時にグローバルに共鳴する課題を扱っている点です。

©︎ Verdiana Albano
とはいえ、私にとってインスピレーションは地理だけに結びつくものではありません。
アーティストが暮らし、制作する国にかかわらず、興味深い実践はどこからでも生まれ得ます。相互に接続された世界では、アイデアや影響、対話は国境を越えて行き来します。
特定の「国のシーン」を追うというよりも、支配的な語りを揺さぶり、新しい物語形式を試し、予想外の視点を提示するアーティストに惹かれています。
Q9. あなたが人生をかけて追い求めたいことは?
尽きない好奇心。

©︎ Verdiana Albano
Q10. 世界中のクリエイターへ、今のあなたから届けたいメッセージをお願いします。
どうか、お互いを支え合ってください。創造の世界は個人の成功を称えがちですが、多くの機会は協働や交換、連帯があってこそ生まれます。
コミュニティを育てることは、キャリアを築くことと同じくらい大切になり得ます。

