独自の視点で写真表現を追求する人物・媒体へのインタビューを通じて、創作の原点や思想、制作プロセスを深掘りし、世界中のフォトグラファーやフォトメディアへ新たなインスピレーションを届けます。
香港の写真プラットフォーム〈PhotogStory〉。その創作の原点、そして大切にしてきた思想と視点を、今この時代に言葉としてアーカイブに残していくことは、これからの写真文化の一端を支えていくはずです。
今回は、〈PhotogStory〉の創設者である〈LAU Tung-Pui(劉東佩)〉さんに「10の質問」を投げかけ、その表現がかたちになるまでのプロセスに迫ります。

LAU Tung-Pui(劉東佩)
PhotogStoryは、写真ライティングと展覧会企画を手がける香港の写真プラットフォーム。運営する写真キュレーターのLAU Tung-Pui(劉東佩)は、Leica Oskar Barnack Award(LOBA)の香港地区唯一の推薦者(2022〜2026年)も務める。2025年7月には写真集専門書店「DEVEDO(顯影堂)」を黄竹坑に開設し、書籍販売に加えてトークイベントや展覧会も定期的に開催している。
Instagram:@photogstory
Q1. PhotogStory の立ち上げ背景と、現在取り組んでいる活動について教えてください。執筆・書店運営・キュレーションという3つの柱は、どのように生まれ、実践の基盤として発展していったのでしょうか。
執筆、書店運営、そして展覧会のキュレーションは、〈PhotogStory〉が写真文化を積極的に推進していくうえで、互いに結びついた3つの方法だと捉えています。
編集分野で10年以上の経験を積み、主に雑誌や新聞に向けて記事を執筆しながら、多くの写真家たちを取材してきました。その延長線上で、2018年に写真プラットフォーム〈PhotogStory〉を立ち上げています。私にとっては「写真について書くこと」は、〈PhotogStory〉が大切にしている活動の一つです。これこそが活動の根幹であり、そこを大切にしてきました。

©︎ PhotogStory
また自然と、写真コミュニティとの関わりが深まるなかで、を深めるなかで、ギャラリーから展覧会のキュレーションを依頼されるようになりました。機会が増えていきました。展示制作に携わると、経験を通して、展示空間のなかで写真家の作品を文脈化することが、観客の記憶に強く残り得るのだと実感するようになり。しています。近年は展覧会のキュレーションにもより積極的に取り組んでいます。
Q2. 香港の写真シーンを記録し発信し続ける中で、あなたが一貫して大切にしてきた視点・価値観・姿勢があれば教えてください。
AIにプロンプトを入力するだけで、数秒で完璧で魅力的なビジュアルが生成できる時代になっても、実店舗の書店やキュレーションされた展覧会の価値が失われたわけではありません。
むしろ、これまで以上に大切な役割を担うようになったと感じています。実店舗は写真を「展示する場所」であるだけでなく、対話を生み、人々の感情を確かなかたちで支えている場所でもあります。
フォトブックは「イメージのキュレーション」をする一つの方法です。紙の手触り、インクの匂い、製本の技巧といった感覚的な体験は、デジタルの画面やAIでは再現できません。書店はセレクションを通じて、異なる時代や国の写真家の作品を並置し、断片的な情報ではなく、より俯瞰的な視点で視覚文化の歴史的文脈を捉える手がかりを読者に提供します。
AI生成画像が凄まじい勢いで増え続けるいま、キュレーターは、対話や比較、批評的なテーマ(フェイクニュース、VR、記憶のフィクション性など)を通して、「写真を見る」という行為を、技術と人間の関係、そして私たちが現実をどのように捉え、形づくっているのかを問い直きっかけへ変えるとができます。そして、深い思索へと引き上げることができると思います。
Q3. 記事やインタビューのアイデアは普段どのように形になりますか?書き手として、編集判断を支える基準や直感は何で、探究する対象やテーマを選ぶ際に何を重視していますか?
新しい展覧会や、写真家の新たな作品集の刊行は、執筆やインタビューのきっかけになる貴重な機会です。その際、現代の出来事に呼応した特集を組むことも多く、常に「いま」との接続点があり、読む人の心に響くストーリーを届けることを意識しています。
現在ワールドカップが世界的に注目を集めるなかで、キュラソーが初出場することに気づきました。多くの人にとって馴染みのないカリブ海の国ですが、著名な撮影監督ロビー・ミュラーの故郷として知られています。このタイミングを捉え、ミュラーの影響力ある仕事をより広い層へ紹介し、時事的な出来事と、写真・映像表現が持つ持続的な遺産との接点を示そうとしています。
Q4. 2025年にWong Chuk Hangで写真に特化した書店「DEVEDO」を開いた動機が知りたいです。そして、物理的な場所を持ったことで、あなたの実践・コミュニティ・人々の写真との関わり方にどんな変化がありましたか?
香港には写真愛好家のコミュニティが活発に存在する一方で、写真集に特化した書店は長らくなく、ギャラリーやカメラショップが限られた形で扱う程度でした。
このギャップに気づき、「書物という物理的な体験を愛する人々をつなげ、写真作品を紹介できる場」をつくりたいという想いを持つようになります。写真愛好家にとっての新たな展示プラットフォームをも提供するため、書店を立ち上げることになります。

©︎ PhotogStory
〈DEVEDO〉は開店以来、香港だけでなく台湾、中国本土、日本、ヨーロッパからも読者を迎え、多様な写真集のコミュニティを育んできました。写真について深く語り合える拠点へと成長していることを誇りに思う一方で、写真集を読む・購入する習慣を変えていくには時間がかかるとも感じています。だからこそ、挑戦を続けることそのものが、地域の写真文化をより深く育むための私の原動力になっています。
Q5. キュレーターとして、展覧会を企画・構成するうえで最も重要だと考えることは何ですか?
私にとって展覧会をキュレーションするうえで最も重要なのは、作品をただ並べるのではなく、特定の空間の中でテーマを立ち上げ、観客が少しずつ理解を深めながら、最終的に「腑に落ちる」感覚へとたどり着ける体験を設計することです。
たとえば〈KG+〉で開催した『Cyan from the Othershore』では、仏教の「彼岸」と「此岸」という概念を手がかりに、抽象的な作風と写実的な作風を対応させました。展示空間そのものを、観客が「此岸」から「彼岸」を象徴する会場へと歩みを進めていくプロセスとして構成しています。

本展ではサイアノタイプを、単なる技法(媒体)としてだけでなくメタファーとして扱い、「此岸」と「彼岸」をつなぐ橋として位置づけました。多様な表現技法を通じて、作家たちは彼方の世界を捉え直しし、イメージの意味を物質的な表象から精神的な象徴へと変容させていきます。その結果として作品は、鑑賞者を思索的な空間へと導くものになると考えています。
Q6. PhotogStoryでの活動を振り返って、特に印象深い記事・人物・テーマはありますか?
〈Boogie Woogie Photography〉のディレクターである〈Vanessa Franklin〉が、ギャラリーで開催された数々の展覧会に、私を共同キュレーターとして招いてくれたことがありました。その経験が、私の中でキュレーションへの関心を確かなものにし、現在、写真のキュレーターとして活動する大きな転機になっています。
Q7. いま香港で写真文化を記録し育むことは、あなたにとってどんな意味がありますか?香港の写真状況の中で活動し、そこから発信することに伴う課題・制約・固有の条件があれば教えてください。
活気ある写真文化を育てるには、忍耐と、継続的な取り組みが欠かせません。香港における大きな課題の一つは、写真について書く行為が無償の労働として扱われることが多い点です。
私自身、多くの記事を、報酬よりも写真への思いを大切にしながら書いてきました。そのような個人に依存した状況では、長期的に執筆を続けようとする人が育ちにくいのが現実だと感じています。
さらに、香港には都市全体の写真史を体系的に検証し、記録していくための機関が存在しません。その結果として、写真文化の重要性が社会のなかで十分に認識されず、重視されにくい状況が続いています。
Q8. 他国の写真シーン・出版物・文化的な取り組みから影響を受けたことはありますか?
日本の写真はアジアでも比類がなく、活発な出版産業と、写真集制作における非常に高い水準によって特徴づけられています。優れた紙質と丁寧に編集された内容を備えた日本の写真集は、今も変わらず、私にインスピレーションを与え続けてくれています。

©︎ PhotogStory
〈AKAAKA〉、〈青幻舎〉、〈Zen Foto Gallery〉といった著名な出版社が刊行する本からは大きな影響を受けており、どの出版社も一貫して素晴らしいタイトルを生み出しています。だからこそ私は、自分の書店でもこれらの出版社の本を積極的に紹介し、日本写真が持つ伝統と革新を、より多くの人に届けたいと考えています。
Q9. AI時代において、写真メディア、フォトブック書店、そしてキュレーションの実践はどのような役割を果たせると思いますか?
デジタル画像やAI生成コンテンツ、そして膨大な情報があふれる時代だからこそ、手触りのある「写真集」というメディアの価値は、むしろ高まっていると感じています。
インディペンデントな写真専門書店は、ある意味でキュレーターの役割も担っています。異なる作家の作品を同じ棚に並べることで、新たな対話を立ち上げているのです。ニッチであることを恐れる必要はありません。私たちの審美眼と粘り強さこそが、アルゴリズムによるレコメンドに対抗し得る、最もロマンチックな武器なのだと思います。
Q10. 最後に、世界中の写真家、フォトブック書店、出版社、キュレーター、そして写真コミュニティの人々に向けて、いま伝えたいメッセージがあれば教えてください。
私は、地域の才能の声と芸術的ビジョンを広げていくことに注力しています。写真展であれ自主出版物であれ、より多くの人がローカルの写真家の作品に目を向け、その歩みを長く見届けてくれることを願っています。
世界各地には、それぞれの土地の文化やクリエイティブコミュニティと深く結びついた独立系写真書店やキュレーターがいます。そうしたローカルな声がもっと国境を越えて届くことを願っていますし、私自身も香港の写真作品や写真文化を世界のさまざまな場所へ紹介し、その魅力や背景にあるストーリーを伝え続けていきたいと考えています。

35 マガジン
グローバルインタビュープロジェクト
世界各地で独自の写真表現を追求するフォトグラファーやフォトメディアへのインタビュー企画。「10の質問」を通して、写真との出会いや創作の原点、作品に込められた想いに迫り、世界中のクリエイターへ新たな視点とインスピレーションを届けます。


