独自の視点で写真文化を支えるクリエイターやメディアへのインタビューを通じて、活動の原点や思想、制作プロセスを掘り下げ、世界中のフォトグラファー・フォトメディアに新たなインスピレーションを届けます。
今回は、イギリスを拠点に活動する写真コミュニティ/プラットフォーム〈Shutter Hub〉の創設者〈Karen Harvey MBE〉さんに「10の質問」を通して、その歩みと、コミュニティへ受け渡していくこれからについて伺いました。

Karen Harvey MBE / Shutter Hub
2014年、写真家でソーシャル・アントレプレナーの〈Karen Harvey MBE〉によって設立された〈Shutter Hub〉は、展示、ポートフォリオレビュー、フォトブック出版など、コミュニティを軸にした機会を通じて、世界中のクリエイティブなフォトグラファーを支援している。写真への公平なアクセスをつくり、ポジティブなインパクトを生み、誰にとっても開かれた機会を広げることを目指すプラットフォーム。
HP : shutterhub.org.uk
Instagram:@harveyhotdog / @shutter_hub
Q1. Shutter Hubの原点と、現在の活動について教えてください。
私にとって、写真はもっとも力強いコミュニケーションのかたちです。物心ついた頃から、写真はずっと私の人生の一部でした。写真家としてキャリアを始めた頃は、決して簡単ではありませんでした。でも、自分で機会をつくる方法を見つけていく中で、その機会を分かち合うことで、より大きなインパクトを生み出せるのだと気づきました。
当時、自分を代弁してくれていると感じられる組織や、自分が世界で見たいと思うものを体現している組織はありませんでした。だから、自分で始めたのです。
この12年間は、本当に素晴らしい旅でした。すばらしい人たちと出会い、ともに境界を押し広げながら、次に何ができるのかを探り続けてきました。私たちが「写真を民主化している」と言われるようになったことは、私にとって大きな意味がありました。
私はこれまでも会費を自分で補助してきましたし、展示を自分たちで印刷したり、誰にとっても開かれた機会をつくったり、参加のハードルを下げるために多くのことをしてきました。それでも、会員制であること自体がまだひとつの壁になっていました。だから、その壁を取り除いたのです。

©︎ Shutter Hub
Q2. Shutter Hubの活動において、最も大切にしている要素・テーマは何ですか?
やさしさが、いつでも最初にあります。私たちはここにいられて、機会を見つけ、声を持ち、場所を持てている。それは幸運なことです。だからこそ、それを分かち合うのは当然のことだと思っています。
コミュニティをつなぐこと、人々を集めること、耳を傾けること、そして共有すること。どれもとてもシンプルですが、本当に大切なことです。
私たちはみんな、何かをすることができます。どれだけ大きくても小さくても、本当に誰もが何かをできるのだと気づき、みんなをつなげることができたとき、そこには、みんなのものとして共有される集合的な力とインパクトが生まれます。

©︎ Shutter Hub
Q3. Shutter Hub のプロジェクトはどのように生まれますか?直感や偶然、現場での判断など、創作の裏側が知りたいです。
私はものを見ることが好きです。シンプルですが、本当のことです!いつも見て、聞いて、大きな絵と小さなディテールの両方について考えています。
時には、会話からアイデアが生まれることもあります。たとえば『Do You Like Love?』は、友人の Jane が近所の高齢の方について話してくれたエピソードから生まれました。別の時には、観察からアイデアが生まれます。『Colour Library』シリーズは、色や光について考えていたこと、そして私がオレンジ色を本当に好きではないということから始まりました。

©︎ Shutter Hub
そうした気づきをメモに残していくうちに、やがてそれが、より広い写真コミュニティへ投げかけるブリーフの形になっていきます。私たちのオープンコールには、誰でも、どこにいても応募できます。作品が少しずつ届き始める瞬間が、私はとても好きです。ときには、思いがけない写真に心を動かされることもあります。予想もしなかった作品に出会えることは、大きな喜びです。
各本に収録する100点の写真を選ぶのは、いつも時間のかかるプロセスです。何日もかけて、画像と添えられた説明を行ったり来たりしながら見続けます。100点に近づくところまで絞り込めたら、すべての写真をプリントして次の段階に入ります。
スタジオの大きなテーブルいっぱいに写真を広げ、並べ替えたり、組み合わせたりしながら、どの写真同士が合うのかを見ていきます。ページの上で写真同士が会話できるようにするためです。床も写真でいっぱいになります。100点の写真を一冊の流れとして組み立てていくのは、とても難しい作業です。それでも私は、そのプロセスが大好きです。同時に、正しく仕上げるべき大きな責任だとも受け止めています。これでよいと思ったら一度扉を閉め、翌日また新鮮な目で見直します。
その後は、ファイルをまとめ、デザイナーと話し合い、表紙画像や全面に使う写真を決め、テキストをまとめ、本を校正していきます。デザイナーの〈Tim Jukes〉は〈Shutter Hub〉の始まりから一緒にいてくれて、本当にすばらしい存在です。本が人々の手に届き、楽しんでもらえるようになるまでには、舞台裏でたくさんの作業があります。
Q4. Shutter Hub を続けていく原動力は何ですか?
私はいつも、人と人をつなぎ、できる限りポジティブな違いを生み出す方法を探しています。そして、変化があることも好きです!
〈Shutter Hub〉のプロジェクトに取り組んでいないときにも、受賞歴のあるNGO〈Toiletries Amnesty〉を運営するなど、さまざまな活動をしています。〈Toiletries Amnesty〉は、世界中で日用品を必要とする約1,000万人を支援しています。
かつては、複数のことをしている人は「器用貧乏」で、ひとつの分野の専門家にはなれないと思われていました。でも私は、その考えに同意したことはありません。もっと多様で折衷的な働き方や生き方には、大きな価値があると思います。異なる経験は異なるアイデアを育て、出会うはずのなかった人々をつなぎ、私たちの人生をより豊かなものにしてくれます。〈Shutter Hub〉は、そうした人生の経験すべてを活かし、つながりのある、考え抜かれたかたちで発展させているのです。

©︎ Shutter Hub
Q5. Shutter Hubの歩みの中で、特に思い入れのあるプロジェクトはありますか?
『Editions』の本の中で、どれかひとつを他より好きだということはありません。どれも私にとって意味があります。公募を世に出す前に、それぞれのテーマやコンセプトについて長い時間をかけて考えてきたからです。
『Poetry』は最初の一冊だったので、その意味で特別です。『Road Trip』は、私がいつも戻りたいと願う自由の感覚を表現していました。『Everyday Delight』は、COVID-19 の制限下で私たちがキュレーションした公共空間での展示の経験から生まれたもので、そこには胸に迫るものがあります。『To The Sea』は、イングランドとフランスで行ってきた関連展示の多くの反復を包み込むものでした。『Do You Like Love?』は、私が何年も考え続けてきたテーマを改めて掘り下げたものです。とてもシンプルな問いだから、答えるのは難しくないはずなのですが。

©︎ Shutter Hub
そしてもうひとつ特別なのが、少し異色の『Night Moods』です。これは私が選んだものではなく、友人の〈Justin Carey〉がキュレーションした美しい本です。〈Justin〉は現在、〈Shutter Hub〉を率いる "Community Team(コミュニティチーム)" のメンバーでもあります。
Q6. AI時代に、フォトブックやZINEのような物理的な形式はどんな役割を持つと思いますか?
AIは、たとえば医療や科学的モデリングのような分野では、信じられないほど有用なツールとして活用できる場所がたくさんあると思います。でも、なぜ私たちは AI にアートまで奪わせる必要があるのでしょうか。
創造性は本当に大きな喜びをもたらしてくれます。そして、その力の多くは、一人ひとりの個人の仕事の中に宿っています。

©︎ Shutter Hub
Q7. Shutter Hubをコミュニティへ受け渡す決断には、どのような思いがあったのでしょうか?
私は 〈Shutter Hub〉を築き、写真への公平なアクセスをつくるために懸命に取り組んできました。そして、私たちが写真を民主化してきたと評価されたことを誇りに思っています。ただ、物事をより公平にするためには、複数の視点が必要です。そこで新しい "Community Team" の出番です。
私は彼らに、制約なく成長できる空間と機会を与えたいと思っています。もちろん、必要とされれば支えます。これはある意味で実験のようなものです。間違いなく一般的なやり方ではありませんし、比較できるものもあまりありません。でも、私が選んだチームを信頼しています。彼らはコミュニティを大切に思い、仲間のフォトグラファーのために最善を尽くしてくれる、良い人たちです。

©︎ Shutter Hub
Q8. Shutter Hub はビジネスとして売却することもできたはずです。それでも、コミュニティに託す道を選んだのはなぜですか?
おかしく聞こえるかもしれませんし、実際にそう言われたこともあります。でも、これは私が売っていいものだとは思えないのです。私はあるものをつくり、やがてその守り手になりました。そして、それがこれからも成長し、栄え続け、違いを生み出し続けるのを見たいと思っています。
〈Shutter Hub〉はビジネス以上の存在です。プラットフォームであり、ミッションであり、コミュニティであり、ときには命綱のようなものでもあります。本当はずっとコミュニティのものでした。今、私たちはそれを正式なかたちにしているだけなのです!
Q9. 今後は新しい Community Team に運営を託し、ご自身は一歩引く立場になるとのことです。12年間築いてきた Shutter Hub から距離を置くことは、どのような感覚ですか?
このことを実現することについては、少し前から考えていました。だから、物事に対して過度に大切にしすぎる気持ちを少しずつ手放し始めることができています。奇妙な感覚でもありますが、同時に素晴らしいことでもあります。
私は一人でできるところまで来ました。そして、〈Shutter Hub〉を私と同じくらい大切に思ってくれる人たちと共有できることを、本当にうれしく思っています。彼らは新しいエネルギー、問い、そして興奮を持ってきてくれます。それこそ、私たちみんなに必要なものです!
Q10. 世界中のフォトグラファー、出版社、メディア関係者へ、今届けたいメッセージをお願いします。
構想中のプロジェクトが完成するまで、あるいは自分が「準備できた」と思えるまで、待つのはやめてください。まずはやってみて、共有して、まだやるべきことがあると思っていても、作品を世界に出してみてください。
私たちのプロジェクト、本、展示の機会は、あなたを待っています!

